蜘蛛のようにのんびりと

いつからかベランダに蜘蛛が二匹居座っている。勝手に住処をこさえて日向ぼっこしている。細長い足を四方に広げた邪悪なフォルムをしている。陽の光が巣に反射して虹色を撒き散らしている。

さて、冒頭でベランダといったが厳密に言うと僕の家についているのはバルコニーだ。小さなテーブルと椅子を置いて天気がいい日はコーヒーでも楽しもうかと今の家を選んだのだが、理想と現実の間にはいつだって深い溝がある。引越し後の整理でバタバタしているうちにバルコニーは荒れ放題になり結局テーブルも椅子も買わなかった。

そこで蜘蛛のお出ましである。いい感じに寂れたバルコニーはいつの間にか彼らの定住地となった。

 

蜘蛛は苦手だけれどそれは体の構造(主に裏側)があまり受け付けないだけで彼らの生き方みたいなものは好きだ。まずちゃんと家を作るところが偉い。俺は一国一城の主だぞという気概が見られる。

そしてのんびりしている。餌が巣にかかるまでただじっとしている姿は見ていて飽きない。降る日も照る日も暇そうにハンモックの上で寝そべっている。時間を贅沢に消費する貴族のようだ。

子どもはとかくカブトムシを王様に祭り上げるがとんでもない。真の王様は蜘蛛である。

僕が老人になったら虫かご片手にカブトムシ狩りをしている近所の子ども達に、いかに蜘蛛が貴族性を備えているかを説いて回りたい。そうやって迷惑がられたい。

 

部屋に戻るとテレビの上を小さな蜘蛛が這っていた。ゴマ粒より少し大きいくらいの体でよちよち歩いているところからするとまだ成虫ではないのだろう。

こいつはどんな家を建てるのだろう。ピサの斜塔のような歪なものだったら面白い。やっぱり蜘蛛はいいなあ。

そんなことを思った。

でも家の中に居られるとなんか気持ち悪いからティッシュで潰して捨てた。