髪型の正解にたどり着けない

美容室で髪を切ってもらった。また理想とは程遠いものだった。

思い返せば生まれてこのかた一度たりとも髪型がきまったことがない。

 

思春期の色気づいていたころそれはそれは色々な髪型を試してみた。ホスト崩れのような長い前髪を作ってみたりワックスでツンツンさせてみたりアシメにしてみたり坊主にしてみたり。でもどれもこれも理想とは程遠かった。

社会人になると奇抜さは鳴りを潜め、自然と落ち着いた髪型になっていった。でもどうにもこうにも似合っていない気がした。

そして今に至る。

僕は会社勤めをしているので派手な髪型にはできないし、年も年なのでもう昔のような髪型にする気もない。というわけで適当に短く切ってもらっている。適当にと言ってもちゃんと美容師と相談しながら頭の形や髪質に合ったスタイルにしてもらっている。で、もちろん似合っていない。

これが一生付きまとうのだとしたら由々しき問題である。

僕は1ヶ月半に1回のペースで髪を切るので年に8回。あと50年生きるとして死ぬまでに400回もうんざりしなくてはいけないではないか!由々しき問題である。

 

そんなこんなでもう最近は美容室で切ってもらっている最中どこがどう似合わないのかを楽しんでいる。

「なるほど!ちょっと耳の上刈りすぎだな、こりゃあ似合わないわ」

「あ~あ~、そんなに前髪すいちゃって!厳しい仕上がりになるぞ~」

心の中でほくそ笑んでいると鏡の中の自分とふと目が合う。浪人中のコボちゃんのような男が半笑いでこちらを見つめていて怖い。

 

「後ろこんな感じですが」

「はい、ありがとうございました」

僕は店を出た。通常料金は4000円だがポイントを使い3800円でコボになれたので得した気分だ。なぜお金を払ってコボにならなくてはいけないのか。

 

羽虫が飛んでいる。

その背後からはセミの喚き声が響いてくる。

虫や鳥が羨ましい。魚もトカゲも羨ましい。

こんなつまらないことに目もくれず伸び伸びと生きている。

なぜ人間だけ無尽蔵に髪が伸びてくるのだろうか。やっかいな生き物である。いっそ髪の毛なんか…

と思ったが本当に髪を失ったらそれはそれで悲しいだろう。そういえば僕の祖父も父も髪が薄い。ということは僕も将来そうなる公算が大きい。ぞっとした。

髪型の正解を求める旅は若いうちだけに許された贅沢な悩みだということにしておこう。